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2023年度ひょうご人権総合講座「ジェンダー①(総論)」中止に関する経緯と見解
一般社団法人ひょうご部落解放・人権研究所
2024年3月12日
当研究所は、2023年11月2日に予定していた、2023年度ひょうご人権総合講座「ジェンダー① (総論)」(講師:牟田和恵・大阪大学名誉教授)を中止した。
ひょうご人権総合講座は、「部落問題をはじめとするさまざまな人権問題について学び、人権社会確立に資するリーダー養成を目的として」2022年度より開講している講座で、人権総論、部落問題、在日外国人、障害者、ジェンダー、子どもなどのテーマの講義をおこなっており、行政や企業、労働組合や宗教団体などに研修として利用していただいている。
冒頭でまず結論を述べる。講座を中止にしたのは、当研究所が、牟田和恵さんの言説をトランスジェンダー女性に対する差別を助長するものであり人権侵害行為だと判断するに至ったからである。
以下、この件に関する経緯と見解の詳細について明らかにする。
1、経緯
2022年1月頃
石元清英所長より牟田和恵さんに上記講座の講師を依頼した。
2023年
7月6日
牟田さんが「トランス問題と女性の安全は無関係か---「LGBTQ+への差別・憎悪に抗議するフェミニストからの緊急声明」についてフェミニストからの疑問と批判」(註1)という文書をnoteに公開した。
7月20日
それを受け、事業の責任者である石元所長(当時。その後、10月26日付で所長辞任)(辞任後は石元前所長)と細田勉事務局長及び事務局員で、対応を話し合った結果、牟田さんに「ジェンダー① (総論)」の講師を降りていただくこと「やむ無し」との結論に至った。
講師選定過程で、古くからの友人であるという石元所長の推薦があり牟田さんに決定、依頼も石元所長を通じてなされた経緯から、石元所長が直接、牟田さんに面会して伝えることとなった。
9月3日
石元所長が牟田さんに面会。なお、この日まで延びたのは、それまで牟田さんが遠方に滞在していたためである。
9月4日
石元所長より細田事務局長へ、「牟田さんが「講師の交代(講師を降りること)は了承するが、それについて説明した文書を出してほしい」と言っている」と、メールで伝えられた。石元所長の指示により、文書は事務局長の細田の名前で出すこととなった。石元所長名で出さない理由は「自分(石元所長)個人の考えと研究所の方針が異なるため」。文書は、石元所長と細田事務局長及び事務局員で検討し、研究所公印と細田事務局長の私印を押印した。
9月21日
上記、研究所からの文書を、石元所長が牟田さんに送付した。
また、石元所長と細田事務局長の協議で、11月2日の代替講師は石元所長が務めることに決定した。
文書では、講師依頼を取り消す理由として、以下の2点を示した。
①研究所と関わりの深い方々が牟田さんの主張を批判しており、牟田さんに講義をしてもらうことで、研究所が牟田さんの主張に同調していると解釈される恐れがあり、今後の研究所運営に支障を来す懸念があること。
②「ひょうご人権総合講座」は議論の場ではなく研修・啓発の場であるという性格上、大きく違うスタンスの講師の講義を同じ講座内で提供することは適切ではない。
「講師を降りることを牟田さんが了承している」という前提があり、かつ、牟田さんと石元所長の関係に配慮し、あえて批判はせず、上記の内容となった。
9月26日
牟田さんより研究所・細田事務局長宛に、「「研究所と関わりの深い方々の批判」とはどういうものか教えてほしい」という趣旨のメールが届く。
9月28日
石元所長と細田事務局長で協議。メールでやりとりするより、直接会って話し合ったほうがよいと判断し、「細田事務局長より「直に会って説明したい」と言われているので少し待っていただきたい」旨のメールを、石元所長が牟田さんに送付した。
9月29日
9月28日に石元所長からメールで伝えられた上記話し合いの件に対しては回答なく、牟田さんはnoteに「「キャンセル」が危うくするもの:ひょうご人権総合講座からの講演取り消し依頼を受けて」(註2)との文書を公開、X(twitter)上でも発信。9月21日付の研究所文書もPDFでそのまま掲載された。
10月2日
石元所長、事務局で対応について協議。以下の通り決定した。
①「講師の交代は了承する」と言われたはずが、noteにはそれと合致しないことが書かれており、認識の違いについて石元所長から牟田さんに伝える。
②10月12日を目途に、受講予定者に、「ジェンダー①(総論)」の講師が牟田さんから石元所長に交代する旨を連絡する。
10月5日
石元所長より細田事務局長に、牟田さんと話し合いの場を持つことが提案され、日時が提示されたが、調整がつかなかった。
10月10日
石元所長より細田事務局長に、所長辞任の意向が伝えられた。辞任の理由は「一度依頼したものを断るのは研究者の矜持に関わる」「牟田さんとは考え方が異なるが、7月6日付の牟田さんの文書は差別ではない」というものである。
11月2日の講義は、石元所長への講師交代ではなく、中止とすることに決定した。
10月26日
石元所長が10月26日付で所長を辞任した。
11月2日
牟田さんが自身のnoteに「本日2日予定の講義はキャンセルされました」との文書を公開。
11月9日
牟田さんと話し合い(石元前所長、細田事務局長、他1名(研究所研究員))。
後日、研究所としての見解を明らかにすることを伝え、話し合いを終えた。
2、 講師依頼取り消しについての見解
前提として、一つの文書は、それが出された背景や文脈、そして、それがもたらす影響等を含めて判断されるべきものであると考える。その観点から、牟田さんの7月6日付noteの文書が出されるまでの経緯や議論を記したうえ、当該文書と講師依頼取り消しについての当研究所の見解を明らかにする。
(1)トランスジェンターに対する差別、バッシング
トランスジェンダーとは、出生時に割り当てられた性と性自認(性同一性)が一致していない人を指す。性自認とはすべての人が持っているもので、単なる「自称」とは異なる。出生時に割り当てられた性と性自認(性同一性)が一致している人は「シスジェンダー」という。
当研究所でも、人権セミナーや「ひょうご人権総合講座」などで、トランスジェンダー当事者を講師に招き、成長する中での葛藤や、生活する中で経験する困難、差別などについて話を聴き、学んできた。そして、自分たちの中にもある「性に対する意識・偏見」に気づき、考えてきた。
ここ数年、特にインターネット上で、トランスジェンダー、とりわけトランスジェンダー女性(以下、トランス女性)に対して、ひどいバッシング、ヘイトが起きている。「女性と名乗れば誰でも女性になれる」「女性を自称すれば誰でも女性用トイレや風呂に入れるようになり、性犯罪が増える」といった言説がその典型である。これらはデマであり、誤解と偏見に基づく差別に他ならない。また、あまりにも当事者の実情を知らない、無理解としか言いようのない言説である。
住宅設備大手LIXILとNPO法人「虹色ダイバーシティ」が2015年に、日本在住の10代以上の性的マイノリティ当事者対象におこなった調査では、トランスジェンダーの6割超が「職場や学校のトイレ利用で困る、ストレスを感じる」、4分の1がぼうこう炎などの排泄障害を経験したと回答したという(註3)。
LGBTに関する情報発信などをおこなう一般社団法人「fair」の松岡宗嗣代表理事は、「心は女性だとさえ言えば女湯に入れる実態はない。一般の人々の「素朴な疑問」によっても、意図せず差別や偏見は広がる。疑問を持ったらイメージや臆測で終わらせず、本当にそうなのかと考えてほしい」と、昨年9月、埼玉県で開かれたシンポジウムで語っている(註4)。
先に述べたようなトランスジェンダー・ヘイトに、「性暴力への恐怖」が利用されている、というのが今の状況である。性犯罪・性暴力は「行為」の問題であり、「属性」の問題ではなく、加害行為をする個人の問題である。しかしながら、「トランス女性と偽って女性スペースに侵入してくる性犯罪者がいる」が「そうした性犯罪者とトランス女性は見分けがつかない」と混同させ、結果として「女性の安全」を名目にして、トランス女性と性暴力が結びつけられてしまっている。これは差別以外の何物でもない。たとえば被差別部落出身者が犯罪をおこなったときに、「だから部落の人間は危ない」「部落は犯罪者の集まりだ」と言われることがあるが、これは差別である。とりわけインターネットを通じたこうした言説は、被差別部落に対する差別や偏見を一層広げ、日々、差別の被害者を生み出していくことになる。これと同様のことが今、しかも勝手な想像と混同により、トランスジェンダーに対して起こっているのである。
もう一点、付け加えておく。性暴力は、力や立場の強い人から弱い人へ行使される「性」を使った暴力である。現在の社会構造上、女性は相対的に弱い立場にあることから、性暴力被害を受けるリスクが高いが、シスジェンダー女性に限らずトランス女性もそういったところは重なる。また、トランス女性は、女性であることとトランスジェンダーであることの二重の被害・差別を受けていると言える。「ひょうご人権総合講座」の「ジェンダー③(性暴力)」の講義でも、被害を受けるのはシス女性だけではなく、シス男性、トランスジェンダーなど性的マイノリティも少なくないことが指摘されている。
(2)LGBT理解増進法をめぐる議論
昨年2023年6月に、LGBT理解増進法が成立、施行された。
成立までの過程で、法12条に、措置の実施等に当たって、「全ての国民が安心して生活することができることとなるよう、留意するものとする」という文言が追加された。マイノリティの権利保障ではなく、マジョリティの権利を確保しようというもので、マイノリティにマジョリティへの配慮を強いるような文言となっている。大野友也・愛知大学法学部教授は「この条文が根拠となり、「国民を不安にするから」としてセクシュアルマイノリティを保護する法律や政策の実施が阻害される危険性もある」と指摘している(註5)。
また、教育・啓発に関しても法6条2項で、「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する当該学校の児童等の理解の増進に自ら努める」の前に「家庭及び地域住民その他の関係者の協力を得つつ」という条件が付記された。三成美保・追手門学院大学教授(奈良女子大学名誉教授)は、「これにより、親や地域集団が批判的な声をあげると学校でのLGBT理解増進教育が阻害される恐れが高まる」と指摘している(註6)。
元々、当事者の人たちが求めていたのは、性的マイノリティに対する差別を禁止する「差別禁止法」だ。多数者による差別的な認識や誤解の中で、いじめ、就職差別、孤立、自殺未遂の率が高いなど、困難を抱えて生きざるをえない状況下、それを解消し、当事者が安心・安全に生活を送るために必要不可欠なものだからである。
2016年に自民を含む超党派の「LGBTに関する課題を考える議員連盟」が法案をまとめたが、この法案は、その後5年「棚上げ」されていた。東京五輪・パラリンピックが開かれた2021年、超党派の議員連盟が法案をまとめて五輪前の成立をめざしたが、自民党が保守系議員の反対で意見を集約できず、国会への提出は見送られた。
2023年の広島でのG7サミット(主要7カ国首脳会議)開催などを前に法案提出の動きが起こり、5月に国会にLGBT理解増進法案が提出された。与党法案では、2021年の超党派の法案にあった立法目的「全ての国民が、その性的指向または性自認にかかわらず、等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重されるものであるとの理念にのっとり、性的指向及び性自認を理由とする差別は許されないものであるとの認識の下に」の文言も削除された。その後、与党と日本維新の会・国民民主党の修正協議の中で、上記文言の追加が決まったのである。
こうして成立した法律案は、当事者が求めていたものとは程遠く、当事者団体や支援団体のほとんどが反対するものとなってしまった。
その過程でSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)を中心に、「(LGBT理解増進法ができると)身体的には男性の人が「心は女性」と言えば女風呂に入れるようになる、それを拒めば差別だとされるので拒否できない」というような、事実誤認と偏見に基づくデマ言説が広げられた。また、これまで同性婚に反対したり、性差別的な言動を取ったりしてきたような保守派が、急に「女性の安全」を声高に唱えるような状況にもなっている。
牟田さんが7月6日付noteで批判している「LGBTQ+への差別・憎悪に抗議するフェミニストからの緊急声明(註7)」は、こうした状況の中で、「女性の不安を煽る言説が拡散している状況を深く憂慮し、フェミニストのあいだでもそのような動きがあることを懸念」して、6月14日に、認定特定非営利活動法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)のホームページに掲載されたものである。
(3)牟田和恵さんのnote(7月6日付)文書と「ひょうご人権総合講座」講師依頼取り消しについて
牟田さんの7月6日付noteの文書のタイトルは、「トランス問題と女性の安全は無関係か---「LGBTQ+への差別・憎悪に抗議するフェミニストからの緊急声明」についてフェミニストからの疑問と批判」で、構成は以下の通りである。
1)「トランスジェンダーへの配慮」のもとに安全のハードルが下がっている
2)女性スペースが脅かされている現実がある
3)「すべての国民が安心して」はヘイトか?
4)WANサイトへの期待
ここでは関連する1)、2)、3)について述べる。
1)では主に「トイレ」の問題、2)では主に「風呂」の問題について論じられている。
「トイレ」と「風呂」の問題は、トランスジェンダー当事者にとって非常にストレスを感じる問題だと言われている。先に述べた住宅設備大手LIXILとNPO法人「虹色ダイバーシティ」の調査でも、多くの当事者がトイレ利用でストレスを感じ、トイレを我慢しており、排泄障害を患う人もいるという結果が出ている。当事者が苦しんでいる問題であるにも関わらず、これまで見てきたように、ことさらに「トイレ」と「風呂」の問題をクローズアップし、トランスジェンダーが性犯罪者であるかのような理不尽で差別的なバッシングがなされてきた。以下、項目を立てて詳しく述べる。
a.トイレについて
牟田さんは、トイレなどで女性や子どもが犯罪被害にあってきたと述べ、「これらは、男性加害者によるものであり、トランス女性とは何ら関係ありません」としつつも、「公共スペースにおいて女性トイレをなくしてオールジェンダートイレにするという事態が生じています」として、「「トランスジェンダーへの配慮」のもとに安全のハードルが下がっている」とする。
設計において問題があるトイレがあるならば、これまでがそうであったように、すべての人が安心して使うことのできるトイレにするためにはどうすればよいかを考え改善していけばよいだけの話だ。そこに「トランスジェンダーへの配慮」を原因として持ち出し、問題を混同させている。そこにいささかの合理性もない。
b.風呂について
「風呂」の問題について牟田さんは、「トランス女性の方々で、性別適合手術を受けていない(以下、未オペと略)状態であるにもかかわらず、女風呂に入った体験を喜々と語り、またそうした行為を勧めているような発信・発言がネット上では見られます」と書いている。
しかし、インターネット上では、信憑性に欠ける情報でも容易に拡散されてしまうので、注意と確認が必要だということは常識の範疇である。たとえば、2023年11月、「埼玉県内の児童養護施設における寮の男女別が撤廃された」という誤情報がSNSを通して拡散したが、これは埼玉県も公式に否定した(註8)デマであった。
牟田さんは、「風呂」の問題について上記の発信をしている人が本当にトランス女性なのか、その発言は事実なのか、それら一つひとつを確認しているのだろうか。牟田さんの上記の文章からは不明である。また、仮にそれがトランス女性であったとしても、不適切な行為をおこなった個人の問題であり、トランスジェンダー一般の問題に拡大できるものではない。
また牟田さんは、「LGBT理解増進法が公布施行されたのと同日6月23日付で厚生労働省医薬・生活衛生局生活衛生課長名で「公衆浴場や旅館業の施設の共同浴室における男女の取り扱いについて」と題し「体は男性、心は女性の者が女湯に入らないようにする必要がある」とする通知が発せられました」として、「逆に言えば通知が出される以前には、「体は男性・心は女性の者」が女湯に入ることが起こりうるとの懸念には十分理由があった」と書いている。
この通知全文と、そこに「参考」として添付されている「公衆浴場法」や「旅館業法」、及び「令和5年4月28日衆議院内閣委員会会議録」は厚生労働省のホームページに公開されており、誰でも見ることができる(註9)。
これらを読めばわかるが、この通知は、LGBT理解増進法審議過程で、すでに述べたようなデマによって懸念が煽られたことから、「身体的な特徴の性をもって判断する」という従来からの運用をあらためて確認するために発出されたものであり、この通知によって運用が変更されたり、何かが付け加えられたりしたものでもない。したがって、牟田さんの(通知以前は)「「体は男性・心は女性の者」が女湯に入ることが起こりうるとの懸念には十分理由があった」という指摘は全く当たらない。
このように間違った認識と憶測で「女性スペースが脅かされている現実がある」と断じ、トランス女性への恐怖を煽る言説は許されることではない。
上記の6月23日付厚労省通知に関して一点付け加えておく。発出後の7月5日、この通知をめぐり立憲民主党が厚労省にヒアリングをおこなった。LGBT理解増進法の国会審議で、「公衆浴場を、自認する性で利用する人が出るのではないか」との質問が繰り返されたが、厚労省の担当者は、5日のヒアリングの際、「実際にトラブルがあったとは把握していない」と説明した(註10) 。
c.LGBT理解増進法について
「3)「すべての国民が安心して」はヘイトか?」で牟田さんは、LGBT理解増進法に「全ての国民が安心して生活することができることとなるよう、留意するものとする」という留意条項が追加されたことについて、「女性という、数のうえでは多数ではあるが、性犯罪の被害や性差別にさらされ続けているマイノリティの立場にも配慮することを求めたものと解釈するのが妥当ではないでしょうか」と書いている。
これまで見てきたように、この条項は、デマに基づくトランスジェンダー・バッシングを背景に設けられたものである。また、この条項のように、マイノリティの権利保障をめざす法律において、マジョリティへの配慮を強いるような条項を許せば、被差別部落出身者や障害者、女性などへの差別の撤廃、権利保障をめざす法や施策の整備場面で、同じように波及していく恐れも十分にある。
「女性の安全」を名目に、シス女性が「トランスジェンダー・ヘイト」に利用されている中で、それを防ぐのではなく、(シス女性の立場にも)「配慮することを求めたもの」とだけ無邪気に評価するのは、あまりにも状況を理解していない。さらにそれは、マイノリティの権利保障に逆行する行為であると同時に、いたずらにマイノリティとマジョリティ(この場合、シス女性)との分断を煽り、人権社会確立を危うくする行為でもある。
d.トランス女性へのバッシングとジェンダー規範
LGBT法連合会が2023年3月 16日に出した「トランスジェンダー女性に対するデマへの毅然とした対応についての声明(註11)」には、次のように書かれている。
「そもそも、性的指向・性自認に関する困難は、その大部分が社会における家父長的なジェンダー規範と密接に結びつくものである。その意味で、性的マイノリティは、構造的に家父長的なジェンダー規範による被害を受けやすい立場にあり、このような知見はジェンダー研究をはじめとした学術分野において、確立されたものであると受け止めている。責任ある立場に就いている人びとが、このような基本的な知見を無視し、ジェンダーに関する暴力の「加害者」であるかのように煽り立てる言説は到底許されるものではない。こうした行為は自らに課せられた責任の放棄に等しいことを厳しく指摘する」
当研究所も、これに同意するものであり、「ひょうご人権総合講座」の「ジェンダー」も、「性的指向・性自認に関する困難は、その大部分が社会における家父長的なジェンダー規範と密接に結びつくもの」という上記の知見に基づき、「①総論」「②性的マイノリティ」「③性暴力」の3つのテーマで企画されている。当然、牟田さんに依頼した「総論」は、女性差別のことだけにとどまらない、②③も含めた、文字通りの「総論」である。
結論
これまで見てきたように、牟田さんは、事実を確認することもなく言説を発信している。現にトランスジェンダーに対する差別とバッシングが吹き荒れ、当事者への脅迫も起きている中で、牟田さんの言動は、トランスジェンダー女性に対する偏見を広め、差別に加担する人権侵害行為である。
以上の理由から、牟田さんは、当研究所が主催する「人権総合講座」の「ジェンダー① (総論)」の講師にはふさわしくないと判断した。
以上
註
(1)https://note.com/mutakazue/n/n38c390f8d59c
(2)https://note.com/mutakazue/n/n0bc107aa2c15
(3)「性的マイノリティのトイレ問題に関するWEB調査結果」特定非営利活動法人虹色ダイバーシティ・株式会社株式会社LIXIL,2016年04月04日報告会資料(2016年11月18日資料改訂)
https://newsrelease.lixil.co.jp/user_images/2016/pdf/nr0408_01_01.pdf
(4)「「対立ではなく対話を」 STOP!性的少数者への差別助長デマ さいたま市で有識者が緊急シンポ」、『東京新聞』 2023年9月30日
https://www.tokyo-np.co.jp/article/280739
(5)大野友也「LGBT理解増進法の問題点と今後の運用について」、法学館憲法研究所「オピニオン」、2023年7月12日
https://www.jicl.jp/articles/opinion_20230712.html
(6)三成美保「LGBT理解増進法案の問題点」、ウィメンズ アクション ネットワーク(WAN)、2023月6月10日
https://wan.or.jp/article/show/10665
(7)https://wan.or.jp/article/show/10674
(8)埼玉県「「埼玉県内の児童養護施設の男子寮・女子寮撤廃」のSNSは虚偽の情報です。」2023年11月9日
https://www.pref.saitama.lg.jp/a0608/top-news/1109sns.html
(9)厚生労働省,薬生衛発0623第1号,令和5年6月23日
https://www.mhlw.go.jp/content/11130500/001112499.pdf
(10)朝日新聞、2023年7月6日
https://www.asahi.com/articles/ASR7576B4R75UTFL01H.html
(11)https://lgbtetc.jp/news/2862/
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