部落差別は、就職や結婚という人生の転機に現れるといわれています。以前は、お見合いによる結婚が多かったようですが、いまは、めぐり合った2人が恋愛して結婚へすすむことが多い時代です。もしかしたら身元調査はいまの方が厳しいかもしれません。めぐり合えた2人の一方が部落に生まれたということだけで反対され、結婚が阻まれることはとても不幸なことです。
周囲を見ても、父母の世代は部落出身者同士の結婚が多いように思いますが、私の世代では、部落出身者とそうでない人のカップルの方が多いと思います。このような状況を考えると、結婚差別は解消しつつあるように思いますが、100組の夫婦がいれば100の物語があります。祝福されて結婚した夫婦もいれば、私のように反対されながらも乗り越え結婚した夫婦もいます。私は、後者の方が多いのではないかと思います。また、差別を受け破談してしまったカップルもいると思います。
部落出身者と部落外出身者の夫婦の数が増えたから、結婚差別が解消されてきたというほど簡単な問題ではありません。しかし、多くのカップルがさまざまな困難や反対を乗り越え夫婦となっているということも事実です。私が差別事象として学んだ結婚差別は、時には人の命を奪う厳しいものでした。もちろん当事者にとって差別の厳しさはいまも昔も変わりません。結婚差別の話をするときにはなかなか「成功例」が語られません。100組の夫婦の100の物語から学んでいくことが結婚差別の解消につながっていくと思います。
私は、解放学級で「差別に負けない『力』をつける」ことを学びました。「差別に負けない」と友だちと誓いあって解放学級を卒業した私ですが、高校・大学と進むなかで出身を隠すようになっていました。差別的な発言が聞こえてきても、反論もできずビクビクするだけでした。部落差別を目の前にしても何も言えない自分の弱さと差別の怖さ、ますます「部落」を避けるようになりました。
結婚したいと思う相手ができた時も、彼女に出身を伝えることができませんでした。伝えるべきか悩んでいたある日、彼女の父親から呼び出され「親戚に迷惑がかかるから」と反対されました。その時も何も言えませんでした。しかし、彼女は違いました。親戚を訪問し、私が部落出身であることを伝え、2人が結婚すると迷惑をかけるかと問いかけました。どの親戚も理解してくれました。やがて、義母が応援してくれるようになり、私も少し強くなっていけました。
結婚式には義父も来てくれ、みんなに祝福され結婚しました。反対されていたときは、本当に辛かったですが、周囲の人たちの支えが2人の大きな力となりました。
いまふりかえると、つくづく私は恵まれていると感謝の気持ちでいっぱいになります。「1人で(2人で)悩まないで」というメッセージを結婚差別に悩む人たちに伝えたいです。私の経験が少しでも役に立てば嬉しいですし、さまざまな体験談を交換できたらと思います。
北谷錦也
参考文献:齋藤直子2014「部落出身者と結婚差別」(http://synodos.society/10900)