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コラム⑭逆差別って何?


 部落問題における「逆差別」とは、「部落の人たちだけが行政の手厚い施策を受けていることは、反対に不公平ではないか」との誤解から生じている意見です。具体的にあげてみると「税金を払わなくていい」「公営住宅に安い家賃で入れる」「子どもたちの勉強を、学校の先生がみてくれる」などです。
 言われているような「特別な施策=特別措置法」は、2002年3月で失効しています。いまは、「部落問題の解決は、一般施策を活用して」積極的に行政で取り組むことになっています。
 税金については、まったく払わなくてよかったことはありません。当時は、被差別部落に対する差別が日常的に生活のなかにあり、就職も不安定な職業にしか就けない人が多く、学校の教育も十分に受けられないなどの実態がありました。そのために、これらの問題を解決して一定の生活ができるようになるまでの期間、税金が減免されてきました。また、「公営住宅に安い家賃で入れる」という声は、そこに同和対策事業として建てられた公営住宅の経過が十分説明されてこなかった結果、言われることだと思います。先に述べましたように、被差別部落の厳しい生活実態と行政の差別解消に向けた施策を怠ってきた歴史があります。このため、生活環境も悪く、不衛生な環境のところが多くありました。また、狭い住宅に家族何人も生活するという家庭も多かったのです。これらを解決する一つとして公営住宅が建てられました。建設された場所は、被差別部落の人たちが住んでいた土地を行政が買い上げ、そこに住んでいた人たちの住居として建てられたのです。一般の公営住宅とは建設の経過と目的が異なっています。そして差別的実態を解決する目的で、一定の期間、家賃を低く設定されてきたのです。
 このように、「逆差別」といわれている施策は、部落差別の厳しい現実とそのことを解決するための取り組みとしてなされてきたものです。そのことの啓発が十分でなかったことの結果、「逆差別」的な声が出てきたのだといえます。
 「逆差別」の声は、「部落の人たちは、私たちより下であって当たり前」「私は、部落とは違う」的な、被差別部落に対する差別的な意識がそのことを支えているのではないでしょうか。
 ある自治体で働いていたとき、同和対策事業で下水道工事をしていました。そのとき、「ここの人はいいわね。下水道負担金が減免してもらえるから。私はここにもう20年以上住んでいるけど……」と言われ、私は、「あなたも申請されれば減免されますよ」と答えました。すると「私は、同和地区の人間じゃないから」と返ってきました。この人は、同和地区に住んで20年以上になる方でした。「同和地区の人と私は違うのよ」という意識から、「逆差別」「ねたみ」的な考えが生まれていないでしょうか。また背景に、「私たちも、これらの施策を受けたい。そんな施策があればうれしい」との生活実態があるのだと思います。だとすれば、被差別部落の人たちに「逆差別」というのではなく、行政に「私たちもそれらの施策が必要だ」と施策を求めていくことです。施策が実現していくことにより、安心して暮らせる社会、人と人がつながり豊かに暮らせる社会、つまり差別をしなくていい社会、差別のない社会につながっていくと考えます。

細田勉